トゥモロー・ワールド

●トゥモロー・ワールド

監督:
  • アルフォンソ・キュアロン(『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』)
出演:
  • クライヴ・オーウェン(『インサイド・マン』)
  • ジュリアン・ムーア(『フォーガットン』)
  • マイケル・ケイン(『バットマン・ビギンズ』)
  • キウェテル・イジョフォー(『インサイド・マン』)
  • クレア=ホープ・アシティ(『ルワンダの涙』)



西暦2027年、子供が産まれなくなって18年──人類は緩やかな破滅へと向かっていた。人類最年少の少年が死亡したというニュースが流れるある日、セオは反政府組織《FISH》に拉致された。そこで再会したのは元妻ジュリアンだった。かつて2人の間には子供が産まれるが、事故で亡くしていた。彼女はある人物を国外に逃がすため、検問を抜ける通行証の手配をセオに依頼する。当日、同行するセオの前に現れたのはキーという名の1人の少女。この少女に隠された秘密とは……?


ザ・SF。
久しぶりにSF映画を観たなぁって感じ。もちろん「スペースファンタジー」じゃなくて「サイエンスフィクション」の方ね。



近未来という語り口で現代社会の問題を浮き彫りにする、というSF映画の真っ当な使い方をした作品。「子供が産まれなくなった世界」という極限状況を提示することで「命」の存在を捉え直そうとしています。

ちなみに本作と原作小説(『人類の子供たち』)とは「子供が産まれなくなった世界」というキーワード以外は全く異なるそうな。パンフの寄稿文から推察する限りでは私は映画版の語り口が好みですね。

主人公はあくまでも普通の人間。原作ではそれなりに主人公らしいアクションも起こすようですが、本作においては映画的ヒロイックさは微塵もありません。全ては1人の人間としてのあがきのみです。

ヒロインの存在も原作とは大きく変わり、主人公セオの心により近い者と、より遠い他者へと役割を分離させた模様。その効果は絶大で「主人公とヒロイン」という相互関係が生み出すある種の安心感を完全に放棄させました。

主人公はとんでもない状況の真っただ中にただ1人放り出されます。

そこで自分を動かすものはかつての愛か、失った過去か、呼び起こされた信念か。それは命の意味を無くした世界に残された良心として我々に問いかけます。命を守ろうとする根源的な気持ちを今、無くしてはならないのだと。



演出面では意図的に長回しを多用してますが、それは決して奇をてらおうとしてのことではなく、物語の中で一番効果的な演出としての選択がそれだったということ。

オープニングでは、主人公が今まさに居た場所が爆破テロの標的となるという事態を1カットの長回しで見せますが、最初に主人公と同じ目線(時間)で世界を見せることで自然と物語に引き込みます(しかも、一見すると平和な世界も実は政治的に荒れていることを理解させ、さらに死というものが紙一重で存在していることをも同時に感じさせる効果付き)。

圧巻はクライマックスの戦闘場面。銃弾が飛び交う中を必死に走る丸腰の主人公に延々とカメラが追随する1カットの映像は、現場に放り出された恐怖感と先の見えない緊張感を否応無しに浴びせ続けます。

本作の中では、主人公の抱く感情を自然に感じさせるため、また、いかに普通の人間がそこに居るのかを体感させるための演出として見事に機能しています。



少女キーが抱く秘密(まさに「鍵」)は予告編等の映像ではそれなりに隠してましたが、ネタを鑑みれば容易に想像できる通りのそれ。でも、やはりネタバレは避けるべきということで、以下↓ネタバレ含む語句は隠しました。

クライマックス、1つの命を抱え、歩を進めるセオとキー。その小さな命を慈しむ心が争う人の手を止める──本作は世界にたったひとつの命というフィクションを使って、命とはただそれだけで大切なものなのだと我々に強く訴えかけています。

だがしかし、本作は人がそんな簡単に賢くはなれないとも語り続けます。人は命の純粋さなど直ぐに忘れて世界の混沌へと身を投げ出すのだと。それは命を縁遠くした現代人の投影に他ならない。皆、忘れてしまっているのだ。誰しもが誰かの親であり子であるという事実を……。



イギリスを舞台に、未来描写にCGを多用することもなく、1人の男の目線で世界の「命」を綴るアイデアSF。めっちゃお薦めです。

でも予告編から受けるハリウッド大作っぽい印象を期待して観た人は、これを肩すかしに感じたりするのかな? まあでも、そういう人はジャンクフードばかりじゃなく、こういう味も美味しいと感じる舌を持とうということで。



余談。それにしても予告編の「ハリー・ポッターの監督が送る……」ってのは宣伝の売りのつもりなんでしょうか? 元々、この監督がハリポタの監督に抜擢されたことの方が異質だと思うんですが。まあ、予告映像はちゃんとしてたから、こんな謳い文句で劇場に足を運ぶ物知らずはいないとは思いますけど。

★★★★★

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